大阪地方裁判所 昭和43年(ワ)4074号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕一、まず原告主張の本件土地の売買の成否について検討するに、被告源治郎ら四名が、もと本件土地を原告主張の各持分割合で共有していたこと、及び本件土地と目録(二)の土地について原告主張の頃東野田工区五〇ブロツク五三号地積三一坪六合の一区画が仮換地指定されていたことは当事者間に争いがなく、右争いなき事実に<証拠>を総合すると、
大阪市は、昭和二六年一一月一三日、特別都市計画法に基づき、本件土地と目録(二)の土地の二筆の土地について、大阪都市計画都島地区復興土地区画整理事業による仮換地として東野田工区五〇ブロツク五三号地積三一坪六合、実測二八坪九合の一区画を指定したこと。
右仮換地は、昭和三二年八月当時、被告元二所有の幸和荘アパートの敷地である大阪市都島区片町二丁目一六四番の土地(旧同市同区東野田町六丁目一六四番)の西側隣地で、それぞれ東側は幸和荘アパート、西側は家屋、北側は道路、南側は川によつて区画された空地(以下本件空地という。)であつたが、前記従前の土地についてそれぞれ一八分の六、一八分の八、一八分の二及び同じく一八分の二の各共有持分を有していた訴外亡ヤス、被告源治郎、同儀三郎及び同元二は、本件空地を売却することになり、他の共有者三名から売却方を一任された被告源治郎において不動産仲介業者の訴外竹内某、同鈴木某らに本件空地を指示して売却の斡旋を依頼し、右訴外人らから本件空地を紹介された原告は現地を確認して、昭和三二年八月二〇日訴外亡ヤス、被告儀三郎及び同元二の代理人を兼ねた被告源治郎から代金八二万円で本件空地全部を買受け、同日その代金も支払つたこと。
ところが、被告源治郎ら四名は、本件空地が本件土地と目録(二)の土地の二筆の土地に対する仮換地であることを知らなかつたためもあつて、右売買にあたつて作成された売買契約書には売買の目的物件として目録(二)の土地だけが表示されたような結果になり、したがつてまた原告は目録(二)の土地についてはその所有権移転登記を経由することができたが、本件土地についてはまだその登記が未了になつているものであること。<中略>右認定を左右するに足る証拠もない。
ところで、仮換地自体は所有権の内容と同じ使用収益権の対象とはなりえても所有権そのものの対象とはなりえず、仮換地上に使用収益権を有する者の所有権は換地処分が発効するまでは従前の土地上に存在し、その処分は従前の土地についてなされるべきものと解すべきであるから、一般に土地の売買において、その売買が仮換地を対象としてなされた場合は当該仮換地に対応する従前の土地について売買がなされたものと解するのを相当とするところ、いまこれを本件についてみるに、原告が被告源治郎ら四名の共有に属する本件土地と目録(二)の土地の仮換地である本件空地を右被告ら四名から買受けたことは前記認定のとおりであるから、原告はその主張のように昭和三二年八月二〇日被告源治郎ら四名からそれぞれ本件土地に対する右被告ら四名の各共有持分を、目録(二)の土地に対する各持分とともに買受けたものと認めるのが相当である。
二1 次に、本件土地について請求原因第二項(一)記載どおりの各持分移転登記がなされていることは当事者間に争いがない。
2 そこで右各登記の効力について考えてみるに、
(一) 原告はまず、訴外亡ヤスと被告元二及び同儀三郎ととの間に右登記原因に見合うような売買はなかつたから右各登記は無効である旨主張するけれども、<証拠>を総合すれば、右被告らはそれぞれ昭和三四年五月二〇日訴外亡ヤスから本件土地の共有持分各一〇分の三宛の贈与を受けたが、その登記はいずれも同日付の売買を原因としてこれをなしたものであることが認められ、そして右認定のように贈与という実体的な持分移転原因が存在する以上、その登記薄上の持分移転原因が売買になつているからといつて右各登記が無効であるとはいえないから原告の右主張は失当というべきである。
(二) 原告はまた、右各登記に見合う何らかの実体的持分移転原因が存在したとしても、それは訴外亡ヤスが既にその共有持分を原告に売渡済みであつたにもかかわらず、これなきものと誤信してなしたものであり、右訴外人の意思表示はその重要な部分に錯誤があり無効であるから右各登記もまた無効である旨主張し、先に認定した事実関係から明らかなとおり、右訴外人の本件土地の共有持分は、被告元二及び同儀三郎に贈与される前に既に原告に売却されており、右訴外人は上来説示のとおり、本件空地が本件土地に対する仮換地でもあることを知らなかつたことが認められるけれどもそのために訴外亡ヤスの前記贈与の意思表示が錯誤に基づいたものであることまでも確認するに足る証拠はないから、右訴外人の贈与の意思表示に要素の錯誤があつたものとはいえず、従つて原告の右主張もまた失当というべきである。
(三) しかしながら、被告源治郎ら四名は、原告との本件土地売買の当事者であつて、それぞれその持分につい原告に登記名義を得させることに協力すべき義務があること上来認定の事実によつて明らかなところであるところ、右のような共有者間における持分の移転はそれ以前に生じた共有者以外の持分取得者に対する登記義務と相容れないものというべきであるから、共有者全員がそれぞれその持分を他に売却した後に右共有者の一人から右売却済の持分の譲渡を受けた共有者はたとえその旨の登記を経由したとしても、現に登記名義人である限りは、それ以前の持分取得者に対する関係において、右持分の取得を対抗しえず、その限りにおいて先の持分取得者は共有者側間の持分移転を否認しうる地位にあるものと解するのを相当とするから、原告はそれぞれ被告元二及び儀三郎に対し、訴外亡ヤスから移転登記を受けた本件土地の共有持分について、移転登記請求権もしくはその抹消登記請求権を有するものというべきである。
三、そこで、次に被告らの抗弁について検討する。
<中略>
3 登記請求権の時効消滅の抗弁について。
登記請求権は不動産物件の実体的な権利変動を可及的に登記薄に反映させ、もつて不動産取引の安全を企図する不動産登記制度の趣旨から考えて、実質的な権利変動がないのに、これあるかの如き登記がある場合あるいは実質的な権利変動があつたのにその旨の登記がない場合等、権利変動登記との間に不一致が存続する限り、右登記請求権だけが独立して消滅時効にかかるものではないと解するのを相当とするから、被告らの右抗弁もまたその余の判断に及ぶまでもなく失当といわなければならない。
(島崎三郎 三好吉忠 竹中省吾)